23「持ち場」の授業分析 2002年の中2生徒
- 実践対象: 2002年7月18日、榕城中学校 2年2組(生徒35名)。
- 授業のねらい:
- どんな人にも社会の中で役割(持ち場)があることに気づかせ、将来への希望を持たせる。
- 日頃何気なく食べている魚(マグロ)の背景にある労働の厳しさやプロの手間を知る。
- 使用教材: 遠洋マグロ漁船(まぐろ土佐船)での人間模様を描いた漫画教材。
2. 漫画教材「持ち場」の構造とメッセージ分析
漫画教材は、過酷な職場環境における登場人物の対比を通じて「人間の価値や役割」を描き出しています。
- 過酷な環境の設定: 1日15時間以上の重労働や長期間の海上生活、厳しい規律が求められるマグロ漁船が舞台となっています。
- 「山下さん」というキャラクター:
- 一見すると仕事が遅く手先が不器用で、作業中にミスをして先輩から厳しく叱られたり要領の悪さを指摘されたりする人物として描かれます。
- しかし陰では、夜遅くまで働くコック長のために防寒具や手袋を編んだり、冷凍庫の霜や集めた水を使って船内でリンゴや草花をコツコツと育てたりしています。
- 教材の核心的メッセージ:
- 世の中には「仕事ができる要領の良い人」だけでなく様々なタイプの人間がおり、山下さんのような人物も荒くれた船員たちの心を和ませ、船全体に欠かせない「持ち場」を確かに持っているという点を示しています。
3. 授業設計と指導展開の工夫
本授業記録からは、生徒の関心を高め、思考を深めさせる段階的な発問構成の工夫が見られます。
- 導入(身近な食からのアプローチ):
- 「お寿司が好きか」「どのネタが好きか(第1位マグロ15名)」という身近な問いから入り、関心を引きつけます。
- 展開①(現実の厳しさの認識):
- マグロ漁の過酷さ(「船に乗れるか?」に対し大部分が「できない」と回答:1日15時間労働、長期間の海の上など)を提示し、日常の裏にある労力を実感させます。
- 展開②(認識の揺さぶりと価値葛藤):
- 最初は山下さんに対して「のろま」「頼りない」「何をやらせてもダメ」といったネガティブな第一印象を持たせます。
- その後、山下さんの陰の行い(編み物やリンゴ栽培、配慮)を見せることで、「なぜ船に乗せてもらえるのか?」と問い、生徒の認識を反転させます。
- まとめ(概念の提示と自己適用):
- 「私にも、きっとどこかに(持ち場)がある」という穴埋め問いを通じて、「持ち場」というキーワードを胸に刻ませます。
4. 生徒の変容と教育的効果
生徒の感想やアンケート結果から、非常に深い道徳的気づきが得られていることが窺えます。
- 自己存在感・自己肯定感の高まり:
- 「自分にはいる意味がないと思っていたけれど…」「ぼくもどこかに持ち場があると信じよう」「自分について少し考えようと思った」など、自己の存在価値を見つめ直す記述が多くみられます。
- 他者理解・人間観の拡張:
- 「いてはいけない人間はいない」「この世界には役に立たない人はいない」「人それぞれ個性や持ち場がある」と、単なる能率主義を超えた人間理解に到達しています。
- 高い授業満足度:
- 生徒による「ためになった度」の評価は平均4.34(5点満点中)と非常に高く、生徒にとって強い腹落ち感のある授業であったことが数値にも表れています。
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授業記録のデータを詳細に分析すると、生徒たちは**「他者への見方」「自己の存在価値」「人間観・社会観」**という3つの大きな軸において、顕著な意識の変容を遂げていることが分かります。
以下に、授業前後の生徒たちの具体的な記述や変容プロセスを詳述します。
1. 他者認識の変容:「要領が悪い人」から「欠かせない役割を持つ人」へ
教材に登場する山下さんに対する第一印象と、授業終わりの感想を比較すると、見方が180度転換しています。
- 授業前半の第一印象:
- 山下さんに対して「ちょっとのろま」「頼りない」「何をやらせてもだめなやつ」「自分の仕事に責任がない人」といった、能率や要領の良さを基準にしたネガティブな評価が目立ちました。
- 授業後の認識:
- 山下さんが陰で行っていた心遣い(防寒具の編み物や船内でのリンゴ栽培など)を知り、「最初はのんきな人だと思ったけど大事な役割を持っている」「山下さんがいないといけないような気がした」「山下さんはなごみキャラで、みんな頼りにしている」と、目立たない部分や人柄が果たす重要な貢献に気づいています。
- 「初めはなぜ山下さんを乗せるのだろうと思ったが、いなければ手袋を編んでくれる人も植物を育てる人もいない」と、船内という極限状態における山下さんの存在価値を具体的に捉え直しています。
2. 自己認識・自己肯定感の変容:「無価値感」から「自分にも持ち場があるという希望」へ
最も深い教育的効果が見られたのは、生徒自身の「自己肯定感」や「存在理由」に関する意識の変化です。
- 存在理由への葛藤と吐露:
- ある生徒は、「私は今まで自分がいる意味なんてなくて、いてもいなくても変わらない存在だと思っていました。私がいる役割ってなんだろうと思いました」と、日常的に抱いていた強い無価値感や不安を率直に感想欄に記しています。
- 自己受容への一歩:
- 授業を通して「ぼくも、どこかに持ち場があると信じよう」「自分について少し考えようと思った」「私も少しは自分のことを信じてみよう」という言葉へと変化しました。
- 単なる気休めではなく、「山下さん」という不器用ながらも認められている存在を通し、「自分にも必ず生きる場所(持ち場)があるはずだ」という未来への希望を抱くに至っています。
3. 人間観・社会観の拡張:「能力主義」から「多様性と絶対的肯定」へ
個人の評価を超えて、人間社会全体に対する視野が広がっています。
- 「役に立たない人間はいない」という確信:
- 生徒の感想には「いてはいけない人間はいないんだなあと思った」「この世界には役に立たない人はいない」「人には人それぞれの個性やタイプがあり、人それぞれ持ち場がある」といった言葉が相次ぎました。
- 能率・効率主義からの脱却:
- 仕事が早い・頭が良いといった分かりやすい成果だけでなく、周囲を和ませることや優しさも社会を支える「持ち場」であるという、寛容で多様な人間観を獲得しています。
4. 日常の裏側(労働)への想像力と感謝
道徳的な側面だけでなく、身近な食(マグロ)の裏にある過酷な現場への想像力も高まりました。
- 最初は「マグロを獲る人のことを考えたことがある」生徒は35名中6名のみでした。
- マグロ漁船での「1日15時間労働」「長期間の海上生活」という現実を知ることで、「マグロをとる仕事はこんなに大変だと初めて知った」「寿司という身近なものとこんな繋がりがあったんだ」と、日常を支える人々の労力に対する感謝や関心が芽生えています。
アンケート結果(定量数値)に表れた納得感
授業後の「ためになった度」の評価では、5点満点中平均4.34(18名が最高評価の5を選択)という非常に高い数値を示しました。生徒にとって単なる「お説教」ではなく、自分の生き方に直接引き寄せて考えられる「腹落ち感」のある授業であったことが数値からも裏付けられています。
投稿時刻 01:10 道徳のチカラ | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)

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