2026年11月 6日 (金)

39「怪獣使いと少年」の授業について 2012年と2014年に中?生徒

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『怪獣使いと少年』を用いた道徳は2回実施したのだけど、ワーク以外の詳しい実践が見つからず。ワークで分析した
授業内容を載せる。
 
1. 授業概要
1.1 基本情報
項目
内容
対象学年
中学校(または高等学校)段階
主題・テーマ
差別・偏見、未知なるものへの恐れ、有事下の集団心理と同調圧力、人権意識と人間の多面性
使用教材
『帰ってきたウルトラマン』第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東條昭平)
活用資料
映像資料(ビデオ前半・後半)、道徳授業用ワークシート(表面・裏面)
1.2 学習のねらい
  • 異質者に対する排斥の心理構造と集団心理の自覚:自分たちと異なる存在(異質な他者や宇宙人)に対する偏見、未知への恐怖、そして有事体制下での同調圧力が引き起こす集団暴力や差別の不当性に気づく。
  • 人権意識と人間観の深層的省察:パン屋の少女が示した個人的倫理観(「だってうちパン屋だもん」)と、暴徒化した人々の残忍さ(伊吹隊長の語る「美しい花を作る手で刃を握る」人間の両面性)を対比させ、人間の持つ弱さ・醜さと強さ・美しさを多角的に考察する。
  • 葛藤の追体験と主体的な道徳的価値の構築:主人公(郷秀樹)が直面する「身勝手な人々を守るべきか否か」という強い葛藤を追体験し、自己の責任論や感情論を超えた生き方・道徳的選択について考えを深める。

2. 本時の展開(授業の流れと発問構成)
道徳教育学・教育方法学の視点から、本授業は単なる映像鑑賞に終わらせず、生徒の思考を「前提の構造化」から「客観的分析」「当事者性の葛藤」「自己の生き方への還元」へと段階的に高める**思考のスキャフォールディング(足場かけ)**に基づき展開される。
2.1 導入:キャラクター認識と知識の整理(前提の構造化)
  • 展開内容: ワークシート表面冒頭に提示されたウルトラマンの写真を確認し、児童生徒が共通して抱く「正義のヒーロー」としてのウルトラマンの像を構造化する。
  • 発問1:「左のキャラクターは何ですか。」
    • 発問意図と目的: 児童・生徒の既成概念である「ウルトラマン=無条件に人間を守る正義の味方」という前提を可視化するため、ワークシートのカッコ埋め形式を用いて以下の3点を全体で確認・共有する。
      1. 地球人では( ない )
      2. (地球人に害)をする( 怪獣 )を倒す。
      3. (正義)の味方
    • 教育的効果:この絶対的価値観をあらかじめ定義しておくことで、後の展開で提示される「ウルトラマン(郷秀樹)が人々の醜さに絶望し、戦いを拒否する」という価値の揺らぎが強い揺さぶりとなり、道徳的葛藤の深化を可能にする。
2.2 展開前半:物語の把握と差別の心理へのアプローチ(客観的分析から自己への還元)
  • 映像鑑賞(前半): 怪獣を封印し天涯孤独の佐久間良少年を救ったメイツ星人(金山さん)の背景、良少年に対する町の人々や中学生の陰湿ないじめ、パンを売ることを拒む店主と対照的にパンを手渡す少女のエピソード(「だってうちパン屋だもん」)、そして町の人々が暴徒化し、警察官の銃撃によって金山さんが射殺される惨劇までを鑑賞する。
  • 発問2:「なぜ、人々はメイツ星人を殺したのでしょうか。」
    • 発問意図と目的: メイツ星人を死に至らしめた人々の心理(未知への恐怖、身勝手な偏見、同調圧力)を客観的に分析させる。伊吹隊長の言葉「日本人は美しい花を作る手を持ちながら、一旦その手に刃を握るとどんな残忍極まりない行為をすることか…」が示す、人間の二面性と暴徒化の心理メカニズムを浮き彫りにする。
  • 発問3:「(自分と違う生物)だからという理由で、こんなことをしてもいいのかな。」
    • 発問意図と目的: 「違っている」という理由のみで他者を排斥・殺害した人々の行動の理不尽さを指摘させ、作中の偏見やいじめが現実社会や生徒自身の日常生活(学校内での差別や同調圧力)と繋がっていることを認識させ、客観的批判から自己内省への転換を図る。
2.3 展開後半:主人公の葛藤と意思決定についての議論(当事者性の醸成と道徳的葛藤)
  • 映像鑑賞(中盤)と発問4の提示: 金山さんの死によって封印が破れた巨大魚怪獣ムルチの出現と、直前まで暴徒化していた人々が一転して身勝手に「頼む!!早く怪獣を退治してくれよ!!」と助けを求める場面を提示する。
  • 発問4:「(郷秀樹)は、この後どうすべきかな。人々を助けるべき?」
    • 発問意図と目的: 郷秀樹が呟いた絶望の言葉「勝手な事を言うな。怪獣をおびき出したのはあんた達だ」という心情に寄り添わせ、「身勝手な人々を見捨てるべきか、それでもヒーロー・防衛隊員として守るべきか」という過酷な倫理的二項対立を追体験させる。単なる正解の抽出ではなく、道徳的葛藤の渦中に参加者を置くことで当事者性を醸成する。
  • 映像鑑賞(後半)とまとめ: 戦いを放棄し座り込む郷秀樹に対し、托鉢僧の姿をした伊吹隊長が「郷、町が大変なことになっているんだぞ。郷、解らんのか?」と問いかけ、葛藤の末に立ち上がった郷=ウルトラマンが豪雨の中でムルチを倒す戦闘を鑑賞する。終映後、宇宙船を探して一人泥を掘り続ける良少年の姿を通じて、人間存在の悲劇性と愛・責任の重みについて授業全体で総括する。
2.4 終末:振り返りと自己評価(自己の生き方への還元)
  • 振り返り活動: ワークシート裏面に基づき、本時の葛藤議論を通じて得た気づきや、「人間の弱さや身勝手さとどう向き合っていくか」という自己の生き方に引き寄せた振り返り記述を行う。
  • 自己評価の記入: ワークシート裏面の評価項目「楽しかったですか」「ためになりましたか」の5段階スケール(5が最高、1が最低)および自由記述感想欄に各自記入させる。

3. 模擬授業での生徒(参加者)の反応・議論の様子
3.1 発問に対する参加者の発言と議論の考察
【発問1】「左のキャラクターは何ですか。」(および知っていることの整理)
  • 主な発言・反応:
    • 「ウルトラマン。地球人ではないが、悪い怪獣から地球を守る絶対的な正義のヒーロー。」
    • 「正義の味方だから、どんな時でも人間を助けてくれる存在。」
  • 考察: ウルトラマンを「無条件に人間を守る善の象徴」と捉える共通了解が形成された。この初期設定が共有されたことで、展開後半における郷秀樹の戦い拒否(「勝手な事を言うな」)が強い倫理的衝撃となり、生徒の思考を深く揺さぶる結果となった。
【発問2】「なぜ、人々はメイツ星人を殺したのでしょうか。」
  • 主な発言・反応:
    • 「宇宙人=悪者という決めつけと、未知の存在に対する勝手な恐怖心があったから。」
    • 「周りの人が大勢で騒いでいたので、自分も攻撃していいんだという集団心理が働いたと思う。」
    • 「連日の怪獣災害で世の中が有事体制になっていて、『宇宙人を庇う奴は裏切り者だ』という同調圧力や隣人の目が怖かったのではないか。」
  • 考察: 単なる個人の残虐性批判に留まらず、怪獣災害という有事下の恐怖、ならびに「同調圧力と隣人の目への恐れ」という社会的・心理的メカニズムにまで議論が深まった。伊吹隊長が語った「日本人は美しい花を作る手を持ちながら、一旦その手に刃を握るとどんな残忍極まりない行為をすることか…」という人間の二面性をリアルに捉える発言が見られた。
【発問3】「(自分と違う生物)だからという理由で、こんなことをしてもいいのかな。」
  • 主な発言・反応:
    • 「自分たちと違うからという理由で排除するのは絶対に間違っている。佐久間少年がいじめられたり、パン屋の店主がパンを売らなかったりするのも同じ理屈。」
    • 「でも、街の人々全員が悪人だったわけではない。パン屋の少女が『だってうちパン屋だもん』と言って良少年にパンを渡した場面のように、集団の偏見に流されず自分の倫理観を保つ強さも人間にはある。」
    • 「現実のクラスやSNSでも、他と違う人をみんなで仲間外れにする雰囲気がある。『異質なものを怖がり排除する弱さ』は自分たちの心の中にもあると思う。」
  • 考察: 差別や偏見の理不尽さを捉えるだけでなく、パン屋の少女の行動を「差別の渦中で個人の倫理性を保った希望」として評価する多角的な視点が出された。さらに、作中の群集心理を現実のいじめや同調圧力と重ね合わせ、自らの内面を客観視するメタ認知的な学びへと深化していた。
【発問4】「(郷秀樹)は、この後どうすべきかな。人々を助けるべき?」
  • 主な発言・反応:
    • 【助けるべきではない(感情的拒絶・自己責任論)】:
      • 「金山さんを殺し、良少年を傷つけた人々が、怪獣が出た途端『助けてくれ』と頼むのは虫が良すぎる。郷の『勝手な事を言うな』という言葉通り、自業自得だ。」
      • 「一度助けてしまったら、人々は自分たちの身勝手さや差別の罪深さに永久に気づかないのではないか。」
    • 【助けるべきである(責任論・超克論)】:
      • 「身勝手な人々であっても、命を見捨てることは防衛隊員・ヒーローとしての否定になる。」
      • 「伊吹隊長が『町が大変なことになっているんだぞ』と諭したように、罪もない子供や町全体を守る責任がある。」
    • 【葛藤の超克・人間観の深層に踏み込む議論】:
      • 「人間は身勝手で醜い部分を持つと同時に、愛や優しさを持つ存在。人間の強さも弱さも、美しさも醜さも、その両方を知った上でなお守ろうと決意することが、本当の意味で『人間を愛する』ということではないか。」
  • 考察: 討論は二項対立の枠組みを超え、人間の本質をどう捉えるかという倫理観の深層に到達した。「人間の醜さに失望しながらも、その多面性を理解した上で命を守る選択をする」という葛藤の超克プロセスが議論され、道徳教育として極めて価値の高い思考の深まりが確認された。
3.2 参加者アンケートおよび感触の分析
  • 定量評価の傾向(ワークシート裏面アンケート): 5段階評価(「楽しかったですか」「ためになりましたか」)において、多くの参加者が最高評価の「5」および「4」をつけた。特撮作品という親しみやすい題材でありながら、従来の「勧善懲悪」を根底から揺さぶる劇的な構造が、参加者の強い探究心を刺激したことを物語っている。
  • 自由記述欄の質的分析:
    • 「ウルトラマンが戦うのをやめて座り込んだシーン(『勝手な事を言うな』)に強く共感した。だからこそ、その後に立ち上がる決断の重さが胸に刺さった。」
    • 「『だってうちパン屋だもん』という少女の言葉が印象的だった。集団の空気が悪くても、自分個人としての正しさを貫ける人間でありたい。」
    • 「差別や同調圧力はフィクションではなく、自分たちの日常に溢れている。人間の醜さから目を背けずに生きていきたい。」

4. 板書計画およびワークシート活用
4.1 板書計画
生徒の思考の流れ(前提共有 → 事象分析 → 葛藤と人間観の深化)と完全に連動させ、黒板を「左・中央・右」の3領域に構造化して展開する。
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【左側:前提理解(導入)】           【中央:事象分析と同調圧力(展開前半)】          【右側:葛藤と人間観の深化(展開後半・終末)】
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■ ウルトラマンの像(発問1)         ■ メイツ星人(金山さん)と良少年                 ■ 怪獣ムルチ出現と人々の掌返し
 ・地球人ではない                    ・良少年を保護、親子の絆                          ・「頼む!!早く怪獣を退治してくれ!!」
 ・害する怪獣を倒す                  ・衰弱し宇宙船を探す (良が掘り返す)             
 ・正義の味方                       ------------------------------------------------ ■ 郷秀樹(ウルトラマン)の葛藤(発問4)
                                    ■ 人々の暴徒化と心理(発問2・3)                  ・「勝手な事を言うな」 (戦いの放棄)
                                     ・未知への恐怖、勝手な偏見                        ・助けない:自業自得、身勝手さへの懲罰
                                     ・有事下の同調圧力、隣人の目の恐怖                ・助ける  :防衛隊・ヒーローとしての責任
                                     ・不当な暴力 (金山さんの射殺)                    ┌───────────────────────────────────────────────┐
                                    ------------------------------------------------ │ ★道徳的価値の超克                             │
                                    ■ 差別の渦中の光                                │  人間観:「美しさ」と「醜さ」、「強さ」と   │
                                     ・パン屋の少女:「だってうちパン屋だもん」      │            「弱さ」の両方を知った上でどう生きるか│
                                     ・個人の倫理観と集団心理の対立                  └───────────────────────────────────────────────┘
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4.2 ワークシート(教材)の構成と活用手法
  • 構成の特徴:
    1. ワークシート表面の段階的設問配置:発問1(知っていることのカッコ埋め形式)から発問2・3(集団心理・差別の分析)、発問4(葛藤下の意思決定)へと、思考の階層化に沿ってスムーズに記述欄が配置されている。
    2. 視覚資料の活用:冒頭にウルトラマンの写真資料を掲載することで、児童生徒の関心を即座に喚起し、導入時の共通理解形成を容易にしている。
    3. ワークシート裏面の多角的評価欄:定量的な5段階評価スケール(「楽しかったですか」「ためになりましたか」)と、自己の生き方や人間観を言語化するための十分な自由記述スペースが確保されている。
  • 活用手法の意図: 映像鑑賞の節目(前半・後半)に思考を整理する時間を設けることで、感情的な興奮を客観的・批判的な思考へと転換させ、議論への円滑な参加を促す足場(スキャフォールディング)として機能している。

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